在宅と、救急と、

救命センターのICUで高度医療を行いながら、在宅往診で自宅看取りを行う専攻医の内省とつぶやき

どんな時も、救いたい命があって どうしても、救えない命がある ICUのベッドも、家の畳も 僕にとって、大切な空間のように思う。

【MKSAP17】Treat vancomycin-intermesiate MRSA bacteremia.

【Infection Item 4 - 問題 - 】

 42歳女性。2日前からの発熱・悪寒、及び左膝下周囲の皮膚の紅斑と疼痛、腫脹を主訴に入院された。彼女は入院5日前に転落外傷をおっており、腫脹している同部位に擦過傷をおっている。

 入院同日、エンピリックにバンコマイシンの投与が開始されている。既往歴に2型糖尿病があるが食事療法のみで内服はされていない。その他も含め内服薬はない。

 

・身体所見

 BT 38.7℃  BP 112/74  HR 110  RR 20 

 肺音は清で心音に雑音を認めない

 左膝下の皮膚:

  紅斑と緊満した浮腫、びまん性の疼痛を認めるが、リンパ管炎を疑う所見はない

 

・血液生化学所見

 WBC数 14500/μL

 血清のVCMのトラフ値: 17μg/dL

 入院時血液培養検査:MRSAが陽性 MIC:4μg/mL

 

【問題】

本症例の抗生剤の選択で、最も適切なものはどれ?

 A.リファンピシンを加える

 B.現在のバンコマイシンを同等量で継続する

 C.バンコマイシンを増量する

 D.ダプトマイシンに変更する

 

 

 

 【解答D.ダプトマイシンに変更

【解説】

  本症例においてはバンコマイシンを中止しダプトマイシンなど他の抗MRSA薬に切り替えるべきである。

 バンコマイシンMRSAが起因菌として想定されるような皮膚、及び軟部組織感染症の患者に投与するエンピリックな治療薬の第一選択薬として使用しやすい薬剤ではあるが、他の抗MRSA薬と比較して、その殺菌活性は弱くMRSAによる菌血症や感染性心内膜炎を治療する際には、効果が弱いと言われている。そこで、バンコマイシンのMIC(最小発育阻止濃度)が、治療選択をする上で有効な指標となる。

 分離された菌株に対するバンコマイシンMICが2μg/mL以下で臨床的に改善傾向にある場合はバンコマイシンを継続し、改善傾向にないようであれば他の抗MRSA薬にスイッチしていくべきである。

 一方で、MICが2μg/mL以上の場合、バンコマイシンは菌血症の治療には推奨されない。それ故、本患者に現行量でバンコマイシンを継続するという方針は適切ではない。(ダプトマイシンを使用する場合、もちろんダプトマイシンのMICも検証すべき。)

 

 バンコマイシンに対するMICが2μg/mL以下で、MRSA菌血症に対してバンコマイシンによる治療が適切だと思われる患者(治療反応性も良好な患者)において、バンコマイシン血清トラフ濃度の目標値は15-20μg/mLである。本患者のようにバンコマイシンのトラフ値がこの値内にある場合、バンコマイシンの投与量を増量する事はトラフ値を20μg/mL以上にしてしまう危険性があり、利益よりも有害事象をおこすリスクの方が上昇する。さらに、本患者のMRSAのMICは2μg/mLを超えており、現行量でのバンコマイシンを継続する事も推奨されない。

 バンコマイシンリファンピシンを追加しても、臨床的なアウトカムは改善しない

 

 【KEY POINT】

バンコマイシンに対するMICが2μg/mLを超えるMRSA感染症の治療に対しては、バンコマイシンよりもダプトマイシンの方がより良い治療選択。

 

 【補足メモ】

<まず、感想>

バンコマイシンのMICに関しては(なんとなく耳学問で)1μg/mLをカットオフとしていたけど、2なんだ…と反省。やっぱり耳学問はよくないですね(しかし、1を超えたらきつい気がする…(個人的感想))

 

MRSA感染症に対するリファンピシンについて>

むしろこっちの解釈(MRSA治療にリファンピシン意味ない)の方が重要そう。

まず、選択肢にリファンピシンがある理由…

 米国感染症学会のガイドラインは「ブドウ球菌による人工関節感染の内科的治療にはβラクタム系抗菌薬もしくはバンコマイシンのいずれかとリファンピシンの併用を推奨1) している。……が、そもそもこの推奨の根拠2) 事態が不十分であり、専門家の間でも意見が割れているところ。(対象患者が33人とごく少数だったり、ベースの抗菌薬がなぜかCPFXだったり、そもそもの対象患者が術後早期感染で、遅発性が含まれていなかったりetc...)

 

 しかもこれは、人工関節におけるMRSA感染、であって、MRSA菌血症に対する治療の一般論ではない

 

で、結局リファンピシンどうなのか、という判断の根拠として…

つい先日ARREST studyというDB-RCTの結果がLANCETで出た。3)

 

結論としては

黄色ブドウ球菌菌血症で標準治療にリファンピシンを併用しても全死亡を含め有益性なし』

 

…ただ、このSTUDYは黄色ブドウ球菌感染症、であって、MRSAに絞った研究ではない点である事も注意が必要。(MRSAであった患者は、全体の6%のみ

 

---------------------------------------------------

 個人的経験でいくと、本年度5例の化膿性脊椎炎・腸腰筋膿瘍を経験し、うち3例がMRSAであった。(この地域は、なぜか深部膿瘍が多い…。いい経験にはなったが、これはこれで、原因を究明しなければ、と感じている。)

 そして幸い、本年度は治療失敗例はおらず、全員外来復帰できた事はちょっとした誇りでもある。(療養転院でもなく、外来復帰という所が嬉しい。)

 

 ただ、型通りVCMで押し切れた患者は0で、ダプトマイシンとリネゾリドの併用といった力技でおしきった症例もある。 (一応根拠として、2017年のダプトマイシンのReviw4)に、単独ではMRSAバイオフィルムに対し殺菌作用を持たないが、リネゾリドと併用することで殺菌効果が著しく上昇 って書いてあったし…。)

 さらに内服切替時に、リネゾリド+RFP→MINO+RFP→MINO単剤と、ローテーションしてみたり。 (これには、なんの根拠もない。)

 

結局、MRSAの治療は、難しい。

 

1) Douglas R et al. Diagnosis and Management of Prosthetic Joint Infection: Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America : 2013 Clinical Infectious Diseases

2) Werner Zimmerli et al. Role of Rifampin for Treatment of Orthopedic Implant–Related Staphylococcal Infections : 1998 Journal of the American Medical Association

3)Adjunctive rifampicin for Staphylococcus aureus bacteraemia (ARREST): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled trial

4)J. Antimicrob. Chemother. 2018; 73:1–11.